アルコールと次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水

アルコールと次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水

中国武漢を発生源とする新型コロナウイルスの影響で、消毒用アルコールが品薄になり、次亜塩素酸水の売り込みが激しくなってきています。「うちは酸性水を使っているが、電解水というのが非常に効果があるらしい。酸性水をやめて電解水に変えてみてはどうかね?」と経営者から言われたりしている品証もいるのではないでしょうか?

また、次亜塩素酸水生成機を持っている食品工場が、余裕がある分の次亜塩素酸水を寄付なさっている記事が目にとまるようにもなってきました。みんなで協力して少しでも早く収束させたいところです。

アルコール

食品工場で消毒と言ったらアルコールです。食品に付いていても安全ですし、手指の消毒にも機械の消毒にも使える便利な薬剤です。

幅広い微生物に対して効果がありますが、効果がないものもあるので注意が必要です。アルコールが効きにくい代表的なものはノロウイルスです。ほかにも芽胞菌やアルコールを産出するような酵母には効果がありません。

水分に注意

使い方も注意が必要です。水で薄まるところでは効果が落ちますので、濡れているところにかけるのは正しい使い方ではありません。水気を切ってから噴霧しましょう。

火気厳禁

引火性があるので火のそばで使ってはいけません。

消毒で使用するエタノールは70%が最も効果があると言われています。濃すぎてもすぐに蒸発して効果がなく、薄くても効果がありません。

しかし60%以上のものは消防法や条例で規制があり、保管数量によっては消防署などに届け出が必要になってきます。工場内で保管したい場合は、60%未満のエタノールに脂肪酸などを混ぜて、70%エタノールと消毒効果が同等にしたアルコール製剤を使うことが多いです。

作業者の適不適

加熱直後の熱々の商品をアルコールにどぶ付けする工程がありました。アルコールがたくさん揮発するので、お酒に弱い人は吐いてしまったり後始末が大変でした。

こういう工程は事前に作業者に説明し、アルコールに弱い人ははずす、気分が悪くなりかけたら早めに連絡してもらうなどが必要です。二日酔いのときもこの工程は結構きついと思います。

アルコールが残留していると消費者から「にがい」というお申し出が来ます。熱いうちに噴霧しているラインに、例えば一時保管して冷めた商品を流した時などに起きます。そのまま食べる食品を製造しているラインではご注意ください。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液

家庭用ではキッチンハイターやカビキラーと言った商品が有名です。安価でノロウイルスや芽胞菌にも効果があります。

原液の濃度

業務用の原液は6%や12%のものがあります。目標の濃度(機器の消毒では200ppmで使うことが多い)に薄めて使いますが、原液の濃度を調べた上で薄め方を決めてください。

特にメーカーや品番を変えた時は注意が必要です。原液の濃度が変わっているのに、薄め方が変わっていないと意図した効果が得られない場合があります。

カビ取り

水を使う食品工場では排水溝などにカビが発生してしまいます。大掃除する時に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使うことが多いでしょう。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液は原液で使っても薄めて使っても殺菌効果は同じです。ただ薄くすると殺菌に時間がかかります。ついつい原液で使ったほうが良くカビが落ちそうですが、喉も痛くなりますし、経済的にも効率が悪いので12%の原液を3~5倍に薄めて使うとお得です。

高圧洗浄機

カビが付いている部分は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液でカビを殺してから物理的洗浄を行いましょう。いきなり高圧洗浄機やブラシを使って洗浄を始めてしまうと、カビが飛び散ります。

見た目はキレイになりますが、作業場の空間は舞い上がったカビでいっぱいで、落ち着くのに数日かかります。このような中で製造した商品は、賞味期限内にカビが生えてクレームの嵐 → リコールと言うことにもなりかねません。

最初から高圧洗浄機を使いたい場合はねっとう君のようなお湯が出る高圧洗浄機を使うといいでしょう。お湯を使うので油汚れも落ちやすくとても便利です。

保管方法

水道水も次亜塩素酸ナトリウムで殺菌されています。パイポを入れる方が簡単ですが、観賞魚の水槽に入れる水は、くみ置きや沸騰させてカルキ抜きした水道水を使います。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液は時間とともに殺菌に有効な成分が壊れていきます。長期間保管したもの、特に直射日光が当たるなど温度が高い場所で保管されていたものは濃度が下がっているので注意が必要です。

正確な濃度が必要になる場所(加熱後の清潔区など)で使用する場合は、業者の輸送、保管もしっかりしているものを選ばないと、殺菌効果にバラツキが出ることがあります。 品番やメーカーを変更したときは容器に表示されている原液の濃度を確認し、必要であれば薄め方のマニュアルも更新しましょう。

オーヤラックスの次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、出荷されるまで温度コントロールされた場所で保管されていたり様々な工夫がされているので、濃度など安定した品質のものが工場に届きます。前職でも菌が出たり出なかったりしていたラインの次亜塩素酸ナトリウム水溶液のメーカーを、こちらに変えたら菌が出なくなって安定したことがありましたので参考になれば幸いです。

混ぜるな危険

酸性のものと混ぜると人体に有毒な塩素ガスが発生します。製造ラインの近くにはあまりないと思いますが注意が必要です。

次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)は水に溶かすと水酸化ナトリウムが出来ます。手に付くとヌルヌルするのは、水酸化ナトリウムが手の表面を溶かしているからです。手に付かないように、また目に入らないように気をつけましょう。アルミに水酸化ナトリウムが付着すると溶ける(薄い濃度では溶けないまでもアルミが黒ずんでくる)ので、使う部分の材質にも注意が必要です。

NaOCl + H2O ←→ HOCl + NaOH

また、脱色作用があるので、エプロンを着用してから作業しましょう。

次亜塩素酸水

酸性水、電解水、などいろいろな名前が付けられています。一般名は次亜塩素酸水で、次亜塩素酸水を生成する機械のメーカーによって呼び名が変わっていますが同じものです。カンファ水(ハセッパー水)、スーパー次亜水なども同じ成分のものですが、電気分解で生成したものではないため法的には次亜塩素酸水とは呼ばないようです。(※この項目では全部まとめて次亜塩素酸水としています。)

殺菌成分は次亜塩素酸(HOCl)ですが、水溶液中で次亜塩素酸はpHにより次亜塩素酸イオンと水素イオンに電離しています。

HOCl ←→ OCl + H

殺菌力は次亜塩素酸のほうが高いです。

次亜塩素酸(HOCl) > 次亜塩素酸イオン(OCl)

次亜塩素酸ナトリウム水溶液はアルカリ性なので次亜塩素酸イオンが多くなりますが、次亜塩素酸水は酸性なので次亜塩素酸水の方が多くなります。このため、次亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウム水溶液より薄い濃度で同等の殺菌力があります。

厚労省 次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの同類性に関する資料より

次亜塩素酸ナトリウム水溶液より薄い濃度で調整されることが一般的なので、臭いはかなり抑えられており、脱色作用も起こりにくくなっています。水酸化ナトリウムにより手の表面が溶けることもありませんので、次亜塩素酸ナトリウムより取り扱いがしやすくなっています。

濃度を点検

次亜塩素酸水を生成する機械が正しく動いているかクロルペーパーなどで濃度を定期的に確認し記録に残しましょう。一般的に40~50ppmですが、機械によって設定値が異なりますので機械の仕様書を確認して基準を決めてください。

保管

次亜塩素酸ナトリウム水溶液と同じく、なにもしなくても徐々に分解されていきます。pHが低い分、次亜塩素酸ナトリウムより分解されやすくなっています。

密封していた方が持ちは良いようです。どのくらいの期間で使い切れば良いかは、クロルペーパーを使ってバックデータを取っておくと良いでしょう。

アルコールと次亜系の違い

アルコールより次亜のほうが効く微生物の対象は広いのですが、取り扱い方法を間違えると効果が上がらないので注意が必要です。

アルコール

水で薄まると効果が落ちます。

次亜系

汚れや食品残渣などの有機物があると、有効成分が結びついてどんどん薄まっていきます。機器、器具をつけ込む時はしっかり洗浄した上でつけ込むことが大切です。

他にも洗面器に張って、何度も手指をつけ込んで消毒に使っているところもあります。手も有機物なのでどんどん有効成分が薄まってしまいます。特に次亜塩素酸水は濃度が薄いので、急激に有効成分がなくなっていきます。短いサイクルで入れ替えるなどが必要になってきます。

微生物に対して薬剤を使うと

アルコールは揮発するまではある程度効果が持続します。刀で敵を倒すようなイメージです。

次亜系は有機物と結びつくと効果がなくなってしまいます。撃ったら消費される銃弾のようなイメージです。汚れや食品残渣などの有機物にも撃ち込んでしまい、銃弾が消費されてしまいます。銃弾が尽きたら殺菌効果がなくなります。次亜塩素酸水の銃弾は次亜塩素酸ナトリウム水溶液の銃弾より1発当たりの威力が高くなっています。

アルコールと次亜塩素酸水を混ぜて使えるか?

アルコールと次亜を混ぜても2倍の効果にはなりません。アルコール濃度が薄まってしまうので、効果が弱まってしまいます。

次亜塩素酸水でビシャビシャの所にアルコールをスプレーしても、アルコールは十分な効果を発揮できませんのでご注意ください。

アルコールを使うにしろ次亜を使うにしろ、きっちり洗浄ができていていることが前提です。なにはともあれまずはきちんと洗って、汚れをしっかり落とすことを徹底してください。

スプレーの使い方

薬剤をスプレーで噴霧して消毒する時も注意が必要です。詳しくはこちらのページをご覧ください。