食品工場に於ける粘着ローラー(コロコロ)がけの重要度

食品工場に於ける粘着ローラー(コロコロ)がけの重要度

毛髪混入を防ぐには、抜け毛を作業服に付着させないことに労力を注ぐより、作業服に付着している抜け毛をいかに取り除くかに注力することが大切です。作業服に付着した抜け毛を取り除くには、なんと言っても粘着ローラーが効果的です。

毛髪混入対策の種類を分類してみると

先の記事毛髪が製品に混入する経路を示しました。複雑ですので直線的に簡略化したものが下図です。

出勤前にシャンプーをして抜けかけている毛を落とす → 帽子をかぶる前にブラッシングして抜け毛を取り除く → 昨日の使い回しではなく、毎回クリーニングから返ってきた新しい作業服を着用する → 上から順番に、ネットをかぶって、帽子をかぶって、上着を着てからズボンを穿く → エアシャワーを通過する → 粘着ローラーをかける → 手洗い消毒して入場、と言う工場を想定しています。

作業服に毛髪を付着させて工程内に持ち込むに至るハードルは「毛髪を付けない環境作り」「毛髪を取り除く工程」の2種類に分類できることがわかると思います。

しかし「毛髪を付けない環境作り」をいくら対策しても、毛髪が作業服に付着する確率を減らすことしか出来ません。作業服に付着した毛髪を工程内に持ち込ませないためには、やはり「毛髪を取り除く工程」をしっかり機能させなければいけません。

クレームが出る度に追加した対策は「毛髪を付けない環境作り」に分類される対策が多いのではないでしょうか。毛髪を付けない環境作り系の対策の方が報告書に書きやすいですからね。

毛髪混入をHACCP的に捉えて管理手段を考える

HACCPでは危害要因分析をし、各工程に於いて管理手段がどれに当たるかを選択していきます。

腐敗微生物の危害要因を考えると、原料の受け入れ、冷蔵保管などはなるべく増殖させないようにするPRPで管理しするのが一般的です。その原料を混ぜて加熱して包装冷却する場合、加熱工程を腐敗微生物を許容レベルにまで低減させるCCPに設定しているところが一般的でしょう。

PRP(原料受け入れや原料の冷蔵保管)は厳格な管理をしなくてもある程度の管理をしていれば、後のCCP(加熱)で対処できます。

毛髪はHACCPで捉える物理的危害要因にはなりませんが、あえて危害要因と捉えた場合、それぞれの工程はどの管理手段を選択すればいいでしょうか?

やはり「毛髪を付けない環境作り」は後の「毛髪を取り除く工程」で対処できますので、PRPになるでしょう。「毛髪を取り除く工程」のエアシャワーと粘着ローラーがけはどうでしょうか?

エアシャワーはこの記事にも記したとおり、完全に吹き飛ばす効果はありません。カーペットに落ちた毛髪を掃除するにはどのような用具を使えば効率的に取れるか考えれば自ずと答えは出るはずです。

よって粘着ローラーがけCCP的に管理すべき工程となります。しかし毛髪混入クレームが多い工場に行くと、どこも共通してこの粘着ローラーがけが穴だらけでスカスカなのです。

毛髪混入対策も微生物対策と同じで、危害要因を取り除く「毛髪を取り除く工程」が穴だらけだと毛髪を作業服に付着させたまま工程に入っていくことになり、結果として毛髪混入は減りません。毛髪を付けない環境作りも大切ですが、何よりも「毛髪を取り除く工程」を厳格に管理することが毛髪混入対策の柱となると考えます。

粘着ローラーがけがキーポイントと気づいたのは・・・

私が担当していた製造委託先で、最もクレームが多かったところは従業員が数十人の町工場みたいなところでした。建物も古く、品質管理の部署もなく責任者が兼務しているような工場です。この製造委託先が出すクレームの中では毛髪混入が特に多く、毎年5~10件/年を行ったり来たりしている状況でした。なかなか今まで対策が進まなかったのも、規模が大きくないから仕方ないかなと思っていました。

人事異動で製造委託先のクレーム削減担当になって初めてこの工場を訪問した日の午前、工場内を見て回りましたが服装が乱れている人はいませんでした。これを見て、「作業服から出てきた毛が落ちているのではないだろうな」と思いました。

ではどこに原因があるのか? 昼休憩後の入場の様子を見てみるとまともにローラーがけできている人はおらず、エプロンを着用してからローラーがけする人がいたり(エプロンの下はローラーがけしていない)、かける順番もバラバラ、かけている時間も短く(10~20秒)、これは苦情が出ても仕方ないと思える状態でした。

次に訪問した製造委託先は、大手上場企業のグループ会社でした。ここも毛髪クレームが多かったのです。上記の工場とは違い、認証規格も取っていて、製造などの責任者が兼任しているのではなく品質保証の部署が独立している工場でした。作業マニュアルも写真入りで非常にわかりやすく作られており、工場内の7Sも行き届いており非常にキレイな工場です。さすが大手スーパー、コンビニなどのOEMを受けるだけのレベルで、私が勤めている会社の自社工場より遙かに高いレベルです。

しかしこのきっちり管理されている(ように見えた)工場で粘着ローラーがけを観察してみると、 かける順番もバラバラ、かけている時間も10~20秒、と前者の工場と同じ状況だったのです。

ここで点が線になりました。粘着ローラーがけを作業者全員が正しくできるようになれば毛髪混入クレームは絶対減ると確信しました。

毛髪混入防止対策の記事一覧

番号順に読んでいただければわかりやすいかも知れません。

  1. 食品への異物混入苦情件
    やっぱり食品のクレームで一番多いのは毛髪混入でしょうと言う話
  2. 食品への毛髪混入と報告書
    報告書を書いたら全部終わった気になって、結局何の対策もしていなかったと言う反省
  3. 食品工場の一般的な毛髪混入防止対策
    どこの食品工場でもやっていそうな普通の毛髪混入防止対策
  4. 食品工場が取り組んでいる更なる毛髪混入防止対策
    食品業界では推奨されているけど、大して効果がなさそうな毛髪混入防止対策
  5. 食品への毛髪混入経路
    作業服の中から落ちてくるのではなくて、作業服に付着した抜け毛が原因じゃないの?と言う話
  6. 食品への毛髪混入を防止するための粘着ローラー(コロコロ)
    やっぱり粘着ローラー(コロコロ)がけが一番だよね~ と言う話
  7. 食品工場に於ける粘着ローラー(コロコロ)がけの重要度 ←今ココ
    毛髪を危害要因と考えたらどこをCCPに設定するか? 的な話
  8. 食品工場に於ける正しい粘着ローラー(コロコロ)がけとは?
    とりあえず自分の職場の現状把握をしてみましょうと言う話
  9. 毛髪混入を防止する正しい粘着ローラーがけ(コロコロ)の手順
    時間をかけて、地道に、着実に対策していかないと毛髪混入は減らせないよ〜 という話
  10. 食品への毛髪混入対策の検証
    クレーム件数による検証も必要だけど、まずは決められた対策を全員が確実に実施しているかを検証したほうがいいよ~ という話
  11. 食品への毛髪混入を防ぐ粘着ローラー(コロコロ)がけの教え方ポイント
    教え方のコツ
  12. 食品工場での新人教育 毛髪混入対策編
    ここだけは入社初日に教えたほうがいいと思うポイント
  13. 二人で行う粘着ローラー(コロコロ)がけ
    相対で行う場合の注意点
  14. 食品工場に設置すべき粘着ローラー(コロコロ)の本数は?
    粘着ローラー(コロコロ)がけのスペースと本数の話
  15. 毛髪混入防止対策に効果的な粘着ローラー(コロコロ)の形状は?
    粘着ローラー(コロコロ)のハードについての考察
  16. 食品工場入口で粘着ローラー(コロコロ)がけにかかる時間
    タイマーで管理している食品工場は毛髪混入が減らない言う話
  17. 粘着ローラー(コロコロ)がけの撮影方法
    現状把握のための録画するときのポイント
  18. その他
    毛髪関連カテゴリーの記事一覧
  19. 毛髪混入が前年比21%にまで減少した粘着ローラー(コロコロ)がけ動画マニュアル & オンラインセミナー
    動画マニュアルの内容と動画マニュアル付きオンラインセミナーのご案内